眼球のなかに薬を注射することで、視力の回復あるいは維持を期待できることをご存知ですか?
網膜に発生した異常な血管(新生血管)が原因で、網膜の中心にあり物を見るために最も重要な部分である黄斑にむくみ(浮腫)や出血が生じると、視力低下やゆがんで見えるなどの症状が起こります。このような状態を引き起こす特定の網膜の病気を治療するために、眼球のなかに直接、薬を注射することがあり、硝子体内注射と呼ばれています。
抗VEGF製剤を用いた硝子体内注射の適応とされ、当院にて対応している疾患は以下のとおりです。
また、当院ではルセンティス、アイリーア、バビースモの3種類の薬剤を使用しております。
加齢黄斑変性では黄斑が年齢を重ねて(加齢)さまざまな異常をきたしてくることで発症します。世界保健機関(WHO)の調査によると世界の視覚障害の原因として、加齢黄斑変性は白内障、緑内障に次ぐ第3位で、失明原因疾患の8.7%を占めます。日本では社会の高齢化と生活様式の欧米化にともなって、この病気は増加傾向がみられるとされており、現在、視覚障害者の原因疾患の第4位と、高齢者の失明原因のひとつとなっています。
加齢黄斑変性には萎縮型と滲出型があります。萎縮型は徐々に網膜の組織が傷んで弱っていくタイプで、黄斑に地図状の萎縮病巣ができ、それにともなって視力はゆっくりと低下します。萎縮型には現在のところ有効な治療法は見つかっていません。
もう一つの滲出型は脈絡膜新生血管という異常な血管が網膜の下に生じ、そこから血液中の水分がにじみ出てきたり(滲出)、出血を生じたりして黄斑が障害されるタイプです。通常は軽度のゆがみで発症し、治療をしないと急速に進行して、短期間のうちに著しく視力が低下してしまうことがあります。こちらの滲出型には硝子体内注射が有効です。治療により黄斑を元通りに治すことはできませんが、症状の改善や視力の低下をゆるやかにすることを期待できます。
糖尿病は高血糖の持続により全身の毛細血管がもろくなり、血液の流れが悪くなってしまう病気です。毛細血管が豊富に存在する網膜は糖尿病の影響を受けやすい組織といえます。
糖尿病を原因として、視力に大切な黄斑に毛細血管のこぶ(毛細血管瘤と呼ばれます)が生じたり、もろくなった毛細血管から血液成分が染み出たりするなどの理由により、黄斑にむくみを生じてしまった状態が糖尿病黄斑浮腫です。糖尿病の患者さんの約10%に生じうると報告されており、糖尿病眼合併症のなかで視力の低下をもたらす主要な原因となっています。
糖尿病黄斑浮腫に対する治療として硝子体内注射は第一選択とされており、多くの方にとても効果的な治療ですが、反応には個人差があり、期待したような治療の効果が得られないケースもあります。そのときには、レーザー治療、ステロイドの局所注射、硝子体手術などほかの治療を併用することがあります。糖尿病黄斑浮腫に対する治療は健康保険でも医療費(自己負担額)が高額になることがあります。医療費を含めて治療方針についてお悩みやお困りのことがございましたら医師までお気軽にご相談ください。
網膜静脈閉塞症は、何らかの原因により、網膜の静脈が詰まって血液が流れなくなる病気です。動脈硬化により動脈が硬くなると、動脈と静脈の交叉している場所や網膜静脈が眼球の外に向かう根元で静脈が圧迫され血液が流れにくくなり、行き場をなくした血液が血管外に漏れて網膜のなかに出血やむくみを生じます。血液の水分が黄斑に貯留すると黄斑にむくみが生じ(黄斑浮腫)、ゆがみや視力低下の原因となります。
治療は硝子体内注射が第一選択とされています。
強度近視は日本の失明原因の上位を占める病態で、近視の進行にともなう眼球変形により、さまざまな網脈絡膜疾患を合併することが知られています。近視性脈絡膜新生血管は強度近視の方の5~11%に起こる病気で、網膜の下に形成された異常な新生血管によって黄斑に出血やむくみを生じます。治療は硝子体内注射が第一選択とされています。
注射の前には点眼麻酔薬を十分に行いますので、痛みを感じることはほとんどありません。感染症を予防するために、注射の直前に眼のまわりを消毒薬できれいに洗い流します。処置は5~10分程度です。
注射をした当日から抗菌点眼薬を3日間ご使用いただきます。洗顔と洗髪は翌日から可能です。
お、病気の進行により視力が極端に低下してしまった方には、身障者手帳(視覚障害)の取得を積極的にお勧めしております。
身障者手帳を取得すると、手持ちの拡大鏡、卓上型の拡大読書器、視覚障害者用の安全杖(白杖)、車いす、障害のある方の日常生活を容易にするために必要な補装具の交付や、購入・修理にかかる費用の助成を受けられます。 購入や修理の場合、自己負担は原則1割で、9割を市区町村が助成してくれます。
そのほかにも携帯電話の割引サービス、NHK受信料の割引サービス、JR新幹線・鉄道・バス・タクシーの割引、所得税・住民税の割引を受けられます。身障者手帳の取得が可能かどうかは、医師までお気軽にご相談ください。
眼の中に炎症を起こす疾患を広くぶどう膜炎と呼び、視力の低下や失明の原因となることがあります。ぶどう膜炎では、眼内で血流が豊富な ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)を介して本来は透明な前房や硝子体といった眼の組織中に炎症細胞が浸潤し、片眼または両眼に充血・眼痛・霞み目・視力低下・飛蚊症など様々な症状が生じます。初期の段階では結膜炎などの他疾患と区別が難しいことも少なくありません。ぶどう膜炎の中には感染症、また自己免疫性疾患や腫瘍性疾患などの全身疾患が原因となっていることがあります。症状の経過も様々で、慢性的に進行するもの、再発を繰り返すものなどがあり、長期的に経過をみていく必要があります。
当クリニックではぶどう膜炎、強膜炎といった眼炎症疾患も対象としています。ぶどう膜炎に対しては主にステロイド点眼剤を中心とした薬物治療を行い、経過をみながら回数調整などを行います。原因検索のためのスクリーニングとして血液・尿検査が可能です。入院加療が必要な疾患、全身疾患の関与が強く疑われる場合、再発性・難治性の場合などは大学病院へ紹介させていただくことがあります。 どうぞお気軽にご相談ください。
担当医:林 勇海